東京大学横山研究室

東京大学横山研究室

グループD Diary Day4 (9/8)

この日、まず早朝に同じ民宿に滞在した人と大槌の赤浜地域を散歩した。霞たなびく山々と静寂に包まれた住宅、そして満々と水をたたえる太平洋を見渡しながら、私は震災時に人々がとった行動に思いを馳せた。生死を分けた決断を映像化した岩手日報社によるウェブサイト「犠牲者の行動記録」には、決して忘れてはならない教訓が込められていると感じた。地図に示された犠牲者の行動を頭の中でたどり、2011年3月11日の複雑な状況や当時の地形を想像する過程で、我々の世代が同じような規模の災害を防がなくてはならないという使命を感じるとともに、科学コミュニケーションを伴う津波避難学の難しさを痛感した。

次に私たちは大槌にある大気海洋研究所の国際・地域連携研究センターを訪れた。研究所が地域の人々と良好な関係を築くために行っていることについての興味深い講義を受けた。この講義において、先生が2011年以前は研究所と地域の間にはあまり関係がなかったと述べた点は興味深かった。この関係があまりない状態は、地域の人々が大気海洋研の研究が地域社会の役になっていないと感じ、そのため研究者への不信感を抱いていたことが原因だと思われる。これはオーストラリアにおいて多くの農家が科学者や政府の取り決めに不信感を抱いている状態と類似している。しかし、我々はもし大槌の研究所が大槌と地理的に離れた関係にある東京の大学ではなく、地元の大学が所有していたのならば状況が少し違ったのではないかと議論した。日本において、地域が持つアイデンティティはオーストラリアと比べはるか昔から培われてきたため、地元の物ではない団体に対する不信感が日本のほうが強いのかもしれないと考えた。

上で述べた不信感、そして関係のなさは、多くの農家や漁師が研究者と比べ、直近の自然環境についてとその環境がどう変化しどのように管理されるべきなのかについてより豊富で、経験則に基づく知識を持っているからだとも考えられる。故に科学者と地域住民の関係性を築くことは、知識や意見を共有し、地域住民が持つ様々な手法を科学の中に組み込む上では重要となってくる。また、東北大震災の後に再建された研究所のあり方は、海洋科学を人々に伝えるために現在取られている手法に準拠した物だった。特に、現在行われている研究を適用、革新できるような、科学に興味を持ち、将来リーダーとなるような人物を地域社会のなかから育成している点は上の一例となる。具体的には大気海洋研究所の国際・地域連携研究センターが、地域とのかかわりを持つために、大槌高等学校のはま研究会と共同で研究を行っていることだ。

大気海洋研究所では新しく発見されたイソギンチャクについての講義を楽しんだ。イソギンチャクは特殊な体の構造を持っており、他の多くの生物が対称軸を一つしか持たないのに対し二つ以上の対称軸を持っている点で他の生物と区別される。これの影響でイソギンチャクの生理学は変化し、左右相称の魚や人間は口や目が体の先端に位置する傾向があるのに対し、イソギンチャクは特殊な対称性により、体中に臓器がある事を学んだ。

午後に我々は気仙沼に移動し、津波によって海岸にもたらされた岩を見るために海岸沿いを歩いた。津波石と呼ばれるような下の写真の岩石は津波によって海底に位置した堆積岩が陸上にもたらされたものであり、特殊な地質構造を見ることができた。津波による巨大な力で岩が動かされた事には驚き、タービダイトによるものと思われる砂岩で泥岩の互層には感動した。この海岸では教室で習うことを実際に目で見ることができた。また班のオーストラリア出身の人はオーストラリアのNSW州の地理と地形が三陸のと類似していることに気づいた。おそらく同じような地球の作用が海岸線にもたらされるため、切り立った断崖や岩が散乱する海岸は驚くべき程似ていた。

一方、我々が散策した部分は三陸復興国立公園に指定されており、オーストラリアの国立公園とは対照的だった。最も基本的な差異として、オーストラリアの国立公園の土地は政府によって所有、管理されているのに対し、日本の場合は私有地が多く、環境や警官に関する規制は比較的少ない。散策路のすぐ隣には放棄され、草で生い茂った畑があり、今後耕作放棄地などが増す中で、国がどのように国立公園を管理するべきかについては様々な困難がある。その中で日本がオーストラリアの国立公園精度から学ぶことができる要素があることが、議論の中で気づかされた。また海岸沿いには下の写真のように折れた、または立ち枯れた木が見られた。今まで山火事や伝染病、塩害などとしか関連付けていた風景が津波によっても引き起こされると知り、大変感慨深かった。

またこの日、一部の生徒が引率の先生方に津波の周期について質問した。その中で興味深かったのは世間一般的に津波の周期が注目される点である。先生によると、海溝型地震によるものやアウターライズ地震などと、津波の要因は様々であり、それぞれの要因により津波の周期は異なる。そのため、例えば15年毎に津波が発生し、100年周期で今まで津波が発生していたから今は比較的安全と考えるのは根本的に間違った思考方法であることに気づかされた。すなわち津波が比較的最近に発生したからといって、また別の要因によって誘因された津波が起こらないとは限らないという事だ。津波を予測しようとすること自体が無意味なのであるだけでなく、物事を一般化、単純化した説明は必ずしも、市民の理解度を高めるという目的を達成しないことを痛感した。

               

Yokoyama Lab,
Atmosphere and Ocean Research Institute,
The University of Tokyo

5-1-5,Kashiwanoha,Kashiwa-shi,Chiba 277-8564 Japan

               

Phone: +81-80-7130-1438

   
Copyright © 2024 Yusuke Yokoyama Lab. All Rights Reserved.
トップへ戻るボタン